[がん]
手術後のステージI胃がんに高リスク因子があるなら — 韓方(漢方)治療の併用で5年生存率が55.5%から81.4%へ
早期(ステージI)の胃がんでも、女性・Ib期・血管侵襲などの高リスク因子があると再発・死亡リスクが高まります。手術後に韓方(漢方)治療を3か月以上併用した患者は5年生存率が55.5%から81.4%に上昇し、とくに高リスク群でその効果が明確でした。
現在も続いている「がん」シリーズの各論文は、扱うがんの種類が違っても、おおむね同じ結論にたどり着きます。標準治療に韓方(漢方)治療を加えると生存に役立つ、という点です。しかし今回ご紹介する胃がんの研究は、少し違う角度から出発します。ふつう「手術だけで十分」と考えられがちなステージI(早期)の胃がん、そのなかでも予後の悪い高リスク因子をもつ患者が対象です。
ステージIの胃がんでも油断できない場合があります
胃がん(胃癌, gastric cancer)は世界のがん死亡原因の第3位で、韓国でも発生率の高いがんです。幸い、ステージIの胃がんは根治手術(curative surgery)だけでもおおむね良好な生存率を示します。しかし、すべての患者がそうとは限りません。高齢、腫瘍の悪性度が高い場合、腫瘍が大きい場合といった、いわゆる高リスク因子をもつ患者は、同じステージIでも予後が明らかに悪くなります。実際、高リスク因子をもつ一部の早期胃がんでは、5年生存率が50%前後まで下がるという報告もあります。
このため、高リスク群では手術だけで終えず、補助治療を併せて検討します。では、韓方治療はこの高リスク群の生存にどれだけ役立つのでしょうか。今回の研究は、まさにその問いに正面から取り組みました。
127名の実臨床の診療記録が示したこと
2023年に国際学術誌Journal of Traditional Chinese Medicineに掲載されたこの研究は、中国・揚州の6つの病院で2012年から2020年に手術を受けたステージI胃がん患者127名の実際の診療記録を解析した多施設の実臨床研究(real-world study)です。手術後に韓方治療を3か月以上服用した48名と、服用しなかった79名の全生存(overall survival, OS)と無病生存(disease-free survival, DFS)を比較しました。
結果は明確でした。1年・3年・5年の生存率は韓方治療群で100%・97.6%・81.4%と、非併用群の91%・64.5%・55.5%よりどの時点でも高く、時間が経つほど差が広がりました(P=0.006)。再発せずに過ごした期間(無病生存)の中央値も、韓方治療群が49.7か月と、非併用群の36.5か月より長くなりました(P=0.001)。複数の因子をまとめて調整した多変量解析で、韓方治療は死亡リスクを下げる唯一の独立した「保護因子」であることが確認されました(全生存ハザード比0.28、無病生存ハザード比0.34)。
高リスク因子があるほど効果は大きくなりました
この研究は、どの要因が生存を悪くするのかも併せて解析しました。その結果、女性、Ib期、血管侵襲(blood vessel invasion)が死亡リスクを高める独立した危険因子として示されました。注目すべきは、まさにこの高リスク群で、韓方治療併用の恩恵が最も大きかったという点です。
女性患者の生存期間中央値は、韓方治療群が57.9か月と、非併用群(28.5か月)の約2倍に達しました(P<0.0001)。Ib期の患者でも51.3か月対29.9か月とはっきり分かれました(P=0.001)。さらに化学療法を受けられなかった患者では差がさらに大きく、韓方治療群59.7か月対非併用群19.3か月でした(P=0.006)。つまり、予後が悪いと予想される患者ほど、韓方治療を併せて続けたときの恩恵が明確だったのです。
どのような韓方(漢方)が使われ、なぜ役立ったのか
この研究で処方された韓方治療の多くは煎じ薬でした。それぞれの処方が目指したのは、腫瘍を直接攻撃することではなく、手術後に低下した消化機能・免疫力・体力を回復させることでした。
がん細胞を抑えつつ、体本来の抗病力も高める「扶正祛邪」の双方向の戦略です。研究では、韓方治療を6か月以上服用した患者で死亡リスクがより低くなる傾向も観察されましたが、標本が小さいため統計学的には確定されませんでした。
手術後こそ、積極的な韓方(漢方)管理を
この研究が伝えるメッセージは明確です。ステージIの胃がんであっても、高リスク因子があるなら手術ですべてが終わるわけではなく、その後に体を回復・維持する管理が生存を左右しうる、ということです。とくに予後が心配される高リスク群ほど、その恩恵が大きかった点を覚えておく価値があります。胃がんで手術を受けた方、あるいはこれから治療を始めようとしている方は、韓医学の専門医と十分に相談し、ご自身に合った韓方処方を着実に続けていかれることをお勧めして、本稿を締めくくります。
このコラムは、下記の論文に基づく一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。引用した数値は原著論文のものであり、後ろ向き観察研究の結果であるため因果関係を証明するものではありません。個々の治療方針は、必ず治療を担当する医療チームと相談のうえで決定してください。
参考文献:Hou C, Zhang Y, Yang D, Li Y, Zhang X, Liu Y. Effects of Traditional Chinese Medicine on the survival of patients with stage I gastric cancer and high-risk factors: a real-world retrospective study. J Tradit Chin Med. 2023;43(3):568-573. doi:10.19852/j.cnki.jtcm.20230227.001.