[顎関節]
治療を始めたのに、よくなったかと思うとまた痛むのはなぜでしょうか ― 顎関節バランス治療中に現れる体の変化「偏差反応」4タイプ
顎関節バランス治療を始めると、なかった症状が出てきたり、もともとあった症状がしばらく強まったりする時期が訪れます。その多くは、体が正常化していく過程で現れる偏差反応です。どのような変化がなぜ起こるのか、そしてそのとき何をすればよいのかを整理してご説明します。
「治療を受けてから首がもっと硬くなりました」「なかった頭痛が出てきました」「数日前からまったく力が入りません」。顎関節バランス治療を始められた方から、診察室でもっとも多くうかがうお話です。
多くの方はあらかじめご説明を聞いて上手に乗り越えられますが、残念ながら少数の方はこの過程に耐えられず、治療をあきらめてしまうことがあります。そのため、こうした状況を「治癒の危機」と呼びます。しかしこの時期は、たいてい治療がもっとも活発に起きている区間です。何が起きているのかをあらかじめ知っておかれると、乗り越え方がまったく変わります。
体が元の位置に戻るとき、静かには戻りません
顎関節バランス療法は、ずれた軸椎(第2頸椎)を整えて全身の筋骨格系と神経系を理想的な均衡状態へ戻す治療です。そのため一度の治療だけでも、体ではかなり大きな構造の変化が起こります。長い年月をかけて少しずつずれてきた構造が再び元の位置を探していくあいだ、体はじっとしていません。
興味深いのはその順序です。病気はふつう「健康な状態 → ゆっくり進行 → 固着」という道をたどりますが、治っていくときは、ちょうどその逆の順序をさかのぼります。今ある症状がまず整理され、次に、以前わずらって忘れていた部位がしばらく現れ、そして消えていきます。19世紀のホメオパシー医師コンスタンチン・ヘーリング(Constantine Hering)は、この現象を「治癒の法則」と名づけ、三つの方向を示しました。
- 内から外へ ― 深部の臓腑の問題が、皮膚や粘膜といった外側へ押し出されて解消されます。
- 上から下へ ― 体の上のほうから順に整理されていきます。
- 発症と逆の順序で ― 最近生じた症状から、古い症状のほうへさかのぼります。
顎関節バランス療法では、この過程で現れる体の変化の反応を「偏差(へんさ)」と呼びます。偏差は故障の信号ではなく、ゆがんだ体を元に戻そうとして、体が懸命に働いているという信号です。正常へ向かう道は、いつも平坦とはかぎりません。ときには急な坂を力をふりしぼって登らねばならず、その区間で息が切れ、脚が重くなるのと同じです。そして、この変化がひときわ大きな波のように一度に押し寄せるときを「大偏差」と呼びます。
偏差は必ず通らなければならない区間です
偏差反応が起こらないようにすることはできません。治療は、偏差という変化と偏差修正という過程を経てはじめて進むからです。ただし、その波の大きさは治療の回数と速度を調節することでいくらでも小さくできます。おつらいときは我慢なさらず、お知らせください。
偏差反応の四つのタイプ ― 今、体の中で何が起きているのか
治療中に現れる体の変化は、大きく四つの形に整理されます。どのタイプがどれくらい強く現れるかによって、感じる不快さの程度が変わります。
過敏反応
Hypersensitive reaction- 主な症状
- 腰痛・関節痛・神経痛などの痛み、めまい、吐き気、頭痛や片頭痛
- なぜ現れるのか
- 環椎(第1頸椎)と軸椎の亜脱臼が元の位置へ整列していくとき、脳へ通じる大後頭孔の通り道が開いたり閉じたりをくり返します。固着していた慢性の症状が、一時的に急性期の状態へ戻ることもあります。
- 続く期間
- ふつう4〜5日以内に自然におさまります
弛緩反応
Relaxation reaction- 主な症状
- 疲労感、無気力、眠気が続く、ぞくぞくする悪寒
- なぜ現れるのか
- 回復に必要なエネルギーが一か所に集まるため、全体として力が抜ける一時的な現象です。問題のあった臓器が本来の機能を取り戻す過程で現れます。
- 続く期間
- 多くは1週間前後。この時期を過ぎると、かえって以前より力がみなぎる場合が多くあります
排泄反応
Eliminative reaction- 主な症状
- 皮膚の発疹、かゆみ、目やに、にきび、湿疹/腹痛、ガス、下痢、便秘
- なぜ現れるのか
- 体内にたまっていた老廃物が、汗・大小便・皮膚・目・鼻など体のすべての出口から排出される過程です。慢性の皮膚疾患をお持ちだった方は、一時的に発疹が強まり、浸出液が出ることもあります。
- 続く期間
- 老廃物が出きると消えます。韓方薬を併用して、この期間を短くし、つらさを和らげることもあります
回復反応
Recuperative reaction- 主な症状
- 感情と情緒の波、嘔吐、痛み、手足のしびれ、風邪のような症状、発熱
- なぜ現れるのか
- ふさがっていた通路が開くとともに、体の変化に感情の変化がともないます。長く難治性の疾患をわずらってこられた方や、抑え込まれた感情を抱えてこられた方ほど、波が大きく現れます。
- 続く期間
- 遠からず落ち着きを取り戻します。おつらいときは必ずお知らせください
以前に痛んだことはあっても今はまったく痛くなかった背中や膝が急に痛むなら、やはりその部位が今まさに整理されているという合図です。たいていは数日以内に自然と消えます。むしろ、こうした反応が強く現れたあとは、その部位が目に見えて楽になる場合が多くあります。
よくなっていく過程か、別の問題かを見分ける目安
すべての不快さが偏差反応というわけではありません。治療の過程で現れる前向きな変化の反応と、確認が必要な状態は、いくつかの点ではっきり分かれます。以下の目安は、ご自身で診断なさるためのものではなく、何を観察してお知らせいただくとよいかのご案内です。
| 観察の視点 | 治癒過程の偏差反応 | 確認が必要な場合 |
|---|---|---|
| 顔色 | つらくても生気があり明るいほう | 暗く、力がない |
| 目の力 | 瞳に力がある | 目から力が抜けている |
| 続く時間 | 数日から1週間以内におさまる | おさまらず長く続く |
| 過ぎたあと | その部位が以前よりはっきり楽になる | 変化がなく、悪くなり続ける感じ |
大偏差 ― 波がひときわ大きく来るとき
治療中、体の変化が急激に、押し寄せるように一度に現れる時期があります。このときの不快さはかなり強いものです。体が正常な均衡を取り戻す過程で起きる力くらべですので、この時期は無理に押し進めるより、いったん止まって十分に休まれるほうがよいでしょう。たいていは、しっかり休めば1週間以内に回復します。
大切なのは、大偏差が我慢すべき時期ではなく、お知らせいただくべき時期だという点です。体力のある方は偏差修正をこまめに受けて速く通過されるほうが有利で、体力の弱い方や敏感な方は治療の間隔を広げてゆっくり進まれるほうがよいでしょう。どちらが合うかは、状態を見ながら一緒に決めてまいります。
こうした症状が現れたら、こうしてください ― 6段階の対処法
治療を受けておられる途中で不快な症状が生じたら、次の順序で対処してください。とくに重い筋骨格系の痛みの疾患や、慢性の難治疾患で治療を受けておられる方は、この順序をあらかじめ覚えておかれるとよいでしょう。
- 標準型の口腔内バランス装置を装着しますまず最初にしていただくことです。標準型の装置が軸椎と神経系を安定した側へ支え、症状の強さをやわらげます。
- 基本のストレッチと運動を行います顎・首・体のストレッチと、正しい姿勢での歩行が、軸椎の整列と神経系の安定を助けます。
- 温かいお湯につかって体をゆるめます全身の緊張をほぐすだけでも、症状の強さが目に見えて軽くなります。
- ご連絡いただき、偏差修正の予定を早めます偏差は修正を受けてはじめて整理されます。次のご予約までお待ちにならず、ご予約フォームからお知らせください。
- 前向きな気持ちを保ちます不安と緊張は筋肉の緊張につながり、症状を大きくします。通り過ぎていく区間だということを思い出してください。
- ご自分だけで判断なさらないでください装置の装着時間を勝手に増やしたり減らしたりせず、症状が出た時点・様子・続いた時間をメモしてお知らせください。その記録が、偏差修正の方向を決めるもっとも重要な手がかりになります。
ご家族にも一緒に知っておいていただきたいことです
治療の過程についての理解が患者さんとご家族のあいだで食い違うと、ちょうどよくなっている時期に治療が中断されることがあります。とくにお子さん・青少年の患者さんや、難治疾患で治療を受けておられる方の場合、ご家族も偏差反応の考え方を一緒に知っておかれることが、治療の成否を分けます。
すぐにご連絡いただきたい場合
- 装置を外しても不快さがおさまらず、続くとき
- 力が抜けて顔色が暗くなり、なかなか回復しないとき
- 耐えがたい痛み・めまい・嘔吐が1日以上続くとき
偏差はいつごろ減っていきますか
治療が進むと、偏差の頻度と強さはともに下がっていきます。おおむね次のような経過をたどります。
| 回復の程度 | このころの変化 |
|---|---|
| 60〜70% | 偏差が起きても、ご自身が感じる不快さは大きくなくなります |
| 70〜80% | ご自身が自覚しておられた症状は、ほとんど消えます |
| 終了が近いころ | よく起きていた偏差が、ある時点からまばらになります |
| 治療の終了 | 6か月以上偏差が起きない状態を、終了の時点と考えます |
ここまでにかかる時間は人によって異なります。疾患が重いほど、わずらってこられた期間が長いほど、時間が必要です。反対にご来院の頻度、装置の装着時間、運動と姿勢の訓練をどれだけ実践なさるかは、治療期間を直接縮める要素です。診察室で過ごす時間より、診察室の外で過ごす時間のほうが、経過を大きく左右します。
あらかじめ知って始めれば、揺らぎません
偏差反応は、治療が誤って現れる現象ではなく、体の構造が実際に動いているという証です。ただ、その事実を知らないまま出会えば、どなたでも不安になります。ですから当院では、治療を始める前にこの過程を先にご説明しています。
不快さを感じられたときに、おひとりで耐えられたり、反対におひとりで判断して中断なさったりしないでください。どのような症状がいつどのように現れたかをお知らせいただければ、治療の速度と方向を調節し、ずっと楽に通り過ぎていただけるようお手伝いします。
よくあるご質問
治療を受けたあと、かえって痛みが強いのですが正常でしょうか?
顎関節バランス療法は、ずれた軸椎を整えて全身の筋骨格系と神経系を理想的な均衡状態へ戻す治療ですので、体が正常化していく過程で、一時的に症状がはっきり強まる時期があります。これを偏差反応といい、過敏・弛緩・排泄・回復の四つの形で現れます。よくなかった部位が順を追って、あるいは同時多発的に現れ、たいていは数日から1週間以内におさまります。ただし、ご自分で判断なさらず、担当の韓医師にお知らせください。
偏差反応にはどのような種類がありますか?
四つに分かれます。過敏反応は痛み・めまい・吐き気・頭痛として現れ、およそ18%で観察されます。弛緩反応は疲労感・無気力・眠気・悪寒として現れ、もっとも多くおよそ35%で観察されます。排泄反応は皮膚の発疹・かゆみ・目やに・下痢・腹痛などとして現れ、およそ10%です。回復反応は、感情と情緒の変化、風邪のような症状、発熱、手足のしびれなどとして現れます。
治療中に不快な症状が出たら、何をすればよいですか?
まず標準型の口腔内バランス装置を装着し、軸椎と神経系を安定した側へ支えます。続いて基本のストレッチと運動を行い、温かいお湯につかって全身をゆるめます。そして担当の韓医院にご連絡のうえ偏差修正の予定を早め、前向きな気持ちを保ちます。装置の装着時間を勝手に増やしたり減らしたりするなど、ご自分だけで判断なさらないでください。
偏差はいつごろ減りますか。治療はいつ終わりますか?
症状が60〜70%ほど回復すると、偏差が起きても大きな不快さは感じなくなり、70〜80%以上進むと自覚症状はほとんど消えます。よく起きていた偏差がある時点からまばらになれば、治療終了の時点が近づいたという意味で、6か月以上偏差が起きない状態を本当の終了の時点と考えます。
治療中に現れる体の変化がご心配な方、いま感じておられる症状がどの区間にあたるのか気になる方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
本コラムは一般的な健康情報の提供を目的としており、個々の診断や治療に代わるものではありません。治療中に現れる反応の様子や続く期間は個人の状態によって大きく異なりますので、症状が生じた場合は必ず担当の医療者にお伝えのうえ、ご相談してから対処してください。高熱、胸の痛み、意識の低下、突然の麻痺などの緊急の症状は治療反応とは関係がありませんので、ただちに救急医療機関を受診してください。
参考文献:李英俊『ドクター・リーの顎関節バランス療法』第9章 治療時の変化過程 ― 治癒過程・偏差反応・対処の要領。